ストリップクラブの調査 2/2

レポート: アメリカンストリップ・クラブ 2/2

英語版

カリブ海のトリニダード島に滞在していた間毎日クレオと連絡をとった。彼女はストリッパーだが同時に一人の女性だ。いつの間にか、実際クラブの外でまだ会ってはいないものの、仲良くなっていた。2026年3月14日にトリニダード島でのブードゥー黒魔術の調査を終えたら真っ先にアタランタへ、マイアミ経由の航空便で戻った。

水曜日のことだった。クレアモント・ラウンジへ戻ったら、クレオがいた。3週間ぶりの再会。Tバックとハイヒール姿だった。僕らの間の空気は以前とはちょっと違う雰囲気だった。恋人同士の関係に近付いていた。もちろん、変わらずお金は注ぎ込んで彼女にプライベート・ダンスを踊ってもらっていたが、クラブの奥の角で会話をする時間の方が長い。

ストリッパーの職業は「ハスラー」として悪名高い。ハスラーとは、上手く僕のようなカモを引っ掛けて、たくさんお金を使ってもらう水商売のスキル。日本にも似たようなハスラーがキャバクラなどで働く。クレオは本物なのか、それとも僕に上手く釣り針をかけたハスラーなのか。その区別をつけるのがまず初めの試験:

クレオ:「この商売で稼げるお金はもちろん嬉しいけど、貴方のような興味深い人と話しながら時間を過ごすのは好きだわ。」

J:「OK。ならば明日、この店の外で俺と会ってみせて。木曜日は君の空いている日でしょう。」

クレオ:「そうよ。分かったわ。なんとかするわ。前回はごめんね。明日は必ず貴方のことをすっぽかさないわ。」

もう、クレオに踊ってもらう度に必ずボディタッチをするようになった。彼女は抵抗しないが、音楽のリズムを問わず異常に速く体を動かす癖がある。それは彼女のスタイルだと言うが、特別にゆっくり踊ってくれないか聞いてみたら、クレオはスピードを落として、流れる音楽に合わせて裸の体を左右に振り出した。ようやく彼女の体をじっと満喫できる。絶妙に張った乳首とプルプルしたお尻。サラサラした腰まで届く絹のような栗色の髪の毛が、体を動かす度に流れて、その度に彼女の香りが漂ってきた。やはりこの子は別嬪だ。彼女が後を向いて尻をピンと張って身体を屈めたとき、僕は顔を寄せてサッと彼女の陰部の肌を自分の顎髭で触れたら「やばい、感じちゃうわ」とクレオは声を漏らした。どうやら、彼女の方から意思が働き始めたようだ。翌日クラブ外で会う約束をして僕は朝の2時にクレアモント・ラウンジを出た。

クラブの外では、セキュリティ・スタッフは拳銃をホルスターから取り出して構えていた。どうしたものか聞いたら、「フードをかけた若者が3人集まっている。危険だ」と。どうやらアタランタは治安が相当悪い街だ。

投入金額:$120
累計:$280

***

2026年3月19日:初デート

2026年3月19日。クレオとクラブの外で会う日だ。彼女からメッセージが届いた。「必ずすっぽかさないわ」と。仕事前にクレアモント・ラウンジ付近のカフェで会うことを彼女が提案した。

カフェの外で彼女を待った。果たしてアメリカン・ストリッパーを上手くクラブから抽出することはできるのだろうか。慌ててもいないのに脈拍数が高騰し、毎秒がしんどく感じた。しばらく待ったら、長目の黒いドレスを着た、見覚えのある輪郭の女性が僕に向かって歩いてきた。クレオだ。ストリッパーとは思えない、普通の女の子。道端で抱き合ったら緊張がほぐれた。クラブの中は暗くて分からなかったが、クレオの瞳は鮮やかな緑色で、少しだけ目尻が垂れていて、それが彼女に穏やかで、どこか安心感を与える美しさがあった。

裸姿を既に見た子との初デートというものは初めてで、なんだか面白い感覚。普通の女の子との交際では、裸姿を見る目的でデートして男は努力をする。しかし、ストリッパーとのデートでは、その順序が完全に逆になる。もう既に僕は彼女の裸姿を何度も見ていて、気に入っていた。実はこの順序の方が確実で、僕にはその合理性が見える。

彼女の身長にも驚いた。150センチくらいだっただろう。クラブでは厚底のプラットフォームブーツとヒールを履き、堂々と背が高く見える。しかし、普通の場所で会ってみると、まったく印象が違った。「何にそんなに驚いてるの?私はただの普通のアメリカ人女性よ!」と、彼女は僕があまりにも驚いているのを見て笑った。コーヒーを買ってあげたら、クレオは礼儀正しく礼を言った。なんて行儀がよくて、可愛らしい子なんだろう。僕たちはカフェの外のベンチに座り、話をした。

J:「なんか妙な感覚だね。緊張はしてないけど、ものすごく興奮した状態だよ。」

クレオ:「別に興奮する必要はないよ!私はごく普通のアメリカン・ウーマンよ。」

J:「うん。でも、もうクラブで君のことを見た上でこうして会ってるから、普通のデートとは違う。それに慣れていないんだと思う。クラブ外で会ってくれてとても光栄に思うよ。」

クレオ:笑「そうよ!私も滅多にクラブで出会ったお客さんと外では会わないわ。でも貴方には何か不思議な魅力があるわ。もちろん誘いはしょっちゅう受けるけど、この業界では会う人を選ばないといけないの。ストーカーもいるし、危険な男ばかりよ。」

J:笑「ふむふむ。俺も一応人を選んでいるよ!君には他のストリッパーと違うところがある。他の子は、厳密に金儲けのために踊っているように見えるけど、君には何か別の動機があることを察したよ。」

クレオ:「そう?先にアプローチしたのは誰かしら?私だと思うよ。それと、もちろんお金は嬉しいし有難いけど、私にとって踊りはエネルギーの交換よ。貴方を最初に見た瞬間から何か不思議な貫禄とオーラがあるのは一眼で分かったわ。なんだか、前にも貴方に会ったことがあるような気がするの……どこかで。私は元々スコットランド系の血が入っているけど、『クリーク』というアメリカ原住民族の血も混ざっているの。そして、『コカペリ』という聖霊の力を借りているつもりだわ。コカペリは私の家族にとって非常に重要な精霊で、笛を吹いているトカゲの姿の精霊よ。私も笛を吹くから、その精霊の影響を受けているわ。」

近頃の西洋人(特に肌色が白い者)は精神と文化的な欠乏により、特異的な信条へ走る傾向性が見られる。それは、バリ島へ行ってヨガを学んで互いにストレッチを教えたりするケースもあれば、僕がインドで経験したような、ヴィパッサナ瞑想センターでお坊さんごっこをする輩もいる。でも、クレオは自分に混乱している様子は見られない。実に彼女は自らの家族の文化伝統を熟知し、それに従おうとしていて、新鮮だ。

J:「非常に興味深いよ。俺はユーラシアン・オデッセイを通して、西洋文化の源である古代ギリシャ神話――つまり『オデッセイ』にある冒険心の伝統を受け継ごうとしてきたんだ。それを生かし続けたい。いや、むしろ、冒険と探検という我々の伝統を継承することで、それを現代に蘇らせたいんだ。」

クレオ:「そうそう、貴方に聞こうと思ってたんだけど、コロナワクチンは打った?私、猛烈なワクチン反対派なんだけど。」笑

J:「まさか。ッフ。」

クレオ:「どおりで。貴方は活気に溢れて、肌がとても健康的に見えるわ。」

J:「ありがとう。君もとても良い体型の持ち主だよ。」笑

クレオ:「私は定期的に断食をするの。今は四旬節だから日中は何も食べないわ。一度も肥満になったことはないわ。」

J:「へぇ。ならば君はいい人だ。俺は仲間間で冗談気に、この世界で真の邪悪な人たちは皆デブだという説を広めているんだ。笑。まぁ、くだらないジョークだよ。そういえば、君に提案がある。俺の本の第一巻を譲りたいんだけど、物々交換をしよう。俺のために2回踊ってくれれば、一冊の本の料金と同じだから、いかが?」

クレオは大きく微笑んだ。

クレオ:「いいわよ〜!物凄く貴方の本を読んでみたいわ!」

中々カフェデートもいい感じに行っていたので、必殺の「手を繋いでもいい?」の技をかけて、クレオの手を握った。彼女はかなり好意的だったのでさらに一歩踏み込み、すかさず小さな体を持ち上げて、まるで小鳥が木の枝に止まるように、自分の膝の上にクレオを座らせた。なんの抵抗もなく、非常に可愛らしい瞬間だった。さらに大胆に次のステップへと移行しようと、キスをしてもいいか聞いたら、「それだけはまだ無理!子供達が風邪にかかったから、貴方に移したくないわ!」とクレオは焦りながら抗議した。

(クレオには3人の男の子がいる。しかも、彼らの父親は皆違う男。長男と次男は庶子で、三男は離婚した元旦那との間で生まれたとのこと)

J:「細菌なんて怖くないぜ!っへっへ!それに、どうせワクチン反対派でしょ?」笑

クレオ:「うん。そうだけどそれに加えて私はまだ貴方とキスをする心の準備ができていないわ。早すぎるわよ!」

J:「ハッハッハ!そりゃそうだな!それなら理解できるよ。分かった。君との距離の保ち方を尊重するよ。」

クレオ:「ありがとう、ジュリアン。」

彼女はそのまま僕の膝の上に座り、僕は腕を彼女の腰に回したまま、二人で話し、お互いの時間を楽しんだ。すると、若い男がカフェの前を歩いていった。

クレオが「Hey」と声をかけたが、彼は返事をしなかった。

こちらを一瞥しただけで、そのまま歩き去った。

J:「ん?知り合い?」怪しい目でクレオに集中させた。

クレオ:「うん。近所に住んでる人。彼、彼女ができなくて悩んでいて、一度私に相談しに来たことがあるの。無視するなんて失礼よね!でも実際、彼が私たちをこういう状態で見たことは、彼にとって良かったと思う。」

J:「なんで?」

クレオ:「私が貴方の膝の上にこうやって抱き合いながら座っている姿を見たら、どうやって彼女を作るか彼は見て学べるかも知れないから。もっとダイレクトに行かないといけないわ、彼は。」

J:「ほう。ならば俺が教える立場にいるのか。」

クレオとの初デートは1時間半くらいだった。彼女が少し遅れて仕事へ行った後僕は辺りをプラプラしながらクレオとの今までの経緯を思い返し、興奮のため相当ハイな状態になっていた。カフェの隣には中々お洒落な古着屋があり、中に入ったらイケたスニーカーが置いてあった。普段、衝動買いなどほとんどしない。それなのに、なぜかその日は、記念として紫と黄色のナイキを一足買った。

日が沈んで辺りが暗くなったらクレアモント・ラウンジへ行った。中に入ると、先ほどデートをしたクレオはTバックとプラットフォーム・ヒールだけの姿だった。迷わず僕の座っているところに腰をたっぷり左右に振りながら歩いてきたクレオは、新たな雰囲気で僕と接した。

クレオ:「さっきはどうもありがとー!楽しかったよ!」

J:「俺も!っていうか、あれからドキドキしまくって、1時間くらいプラプラしながら落ち着こうとしていたよ」笑

クレオ:「あら、私もそうよ。」

J:「それじゃぁ、オデッセイのために踊ってもらおうか。」

クレオ:「いいわよ!」

クラブの奥の暗い角に僕たちは移動した。ここは人目もつかないし、音楽が届かないため話し易いスポットだ。クレオは僕の隣に座った。踊ってもらう前に、彼女の背中の腰あたりを客や他のストリッパーが見えないように優しく愛撫しながら会話をした。ラップダンスをしてもらったら、今まで以上にセクシーで心のこもった芸を彼女は見せてくれた。クレオが僕に背を向けて、体を屈めて尻を顔面の近くに振り出したら、忘れられない香りが僕の元に届いた。これまでの人生で出会ったどんな女性よりも強烈で、抗いがたく、陶酔させる香りだった。

僕は呆然とした。

その瞬間から、僕は完全に魅了されてしまった。

クレオの香りは1ヶ月以上、僕の頭の中に残った。キスよりも、先に彼女の女性器を試してみたかった。ヤリたかったのもあるが、それ以上に、口にしたかった。彼女の愛液の香りは、今まで何人もの経験した女性の中で最も魅力的で抗し難いものだった。試してみたいではなく、「試さずにはいられない」感覚。おそらくクレオは自分が僕にかけた魔法と、それがもたらす効果を知っていたのだろう。だからあんな香りがするんだ。

人間も一種の動物だ。動物的なアトラクションは我々人間にもある。クレオは僕にそんな魅力を与えて、ここまで彼女を追求してきた僕に褒美として自分を取っておいてくれるのだ。

投入金額:$60
累計:$340

***

その翌日、僕はアタランタを離れなければならなかった。今回はかなりハードな旅程で、アタランタからフランスのパリへ、そこからインドのニューデリーへ乗り継ぎで飛ぶ。たったの$300で買えた、地球の反対側へ行く片道航空券。アメリカでユーラシアン・オデッセイを広める企画は今回は失敗したが、次のシーズンで再トライしてみれば良いだけだ。

クレオを一旦離れたが、僕たちは毎日インスタで連絡を取り合った。メッセージを送ったり、電話を時々したり、彼女に僕の神話的な人生を紹介した。タジキスタン南部でピラフライスを食べている時に電話した。アフガニスタンの国境を陸路で超えた日に話した。バングラデッシュのホテルでコーヒーを飲んでいる時に話した。彼女が出会った男は、普通の基準で考えれば、まったく意味の分からない人生を送っている男なのだと彼女は次第に理解していった。一方、僕の頭には、あの「セイレーンの香り」がまだ残っていた。試さずにはいられないという気持ちと共に。2026年の5月に、彼女の誕生日に合わせてアタランタに戻ってみせることを約束した。地球の半径の距離を置いた僕たちは着実に互いに思い合い、愛に陥って行ったのだ。

クレオの香りは、セイレーンの歌が船を航路から逸らすように、ユーラシアン・オデッセイの進路そのものを変えてしまった。神話の中では、セイレーンの声に魅了されたのはオデセウスの耳だった。しかし、僕の現実では、この旅人を魅了し、決定的にオデッセイ号をアメリカへ向けたのは、クレオの香りを感じ取る鼻だった。

***

アメリカには数多くの問題がある。その一つは猛烈なインフレーション。文化的にも、人々は自分自身についてひどく混乱している。特に人種について。家の外に、自分が同性愛者であることを誇示するために旗を掲げるアメリカ人もいる。そして、マナーの悪さもある。人が座る家具の上に、尿と糞で汚れた靴底を何のためらいもなく乗せる人々がいる。彼らは、その靴で一日中何を踏んできたのか、まったく考えていないらしい。

アメリカには数え切れないほど問題がある。それでもこの国を大切にしなければならない理由がある。それは、この国が「地上の天国」であるからだ。神に約束された大地。明白なる使命(Manifest Destiny)。我々のプロジェクト。なぜなら、アメリカが失敗したら、人類が失敗したことに等しい。そんなところなんだ、アメリカは。それに対してユーラシア大陸に存在する多彩で高貴な文化は全て非常に古い。つまり、そこでは全てが既に出来上がってしまっている。そうした場所で新しい未来を築くには、貴重で、古く、そして、あえて言えば「より優れた」何かを壊さなければならない。その破壊により失われてしまう大切な歴史がユーラシアの神話にある。

しかしアメリカは、運命づけられた地上の天国だ。まだ建設途中であり、世界で最も若い国家。まだ、やるべきことが山ほど残されている。そして、その創造への義務と必要性こそが、アメリカへやって来る者の明白なる使命だと言われている。僕はそれを察知していたから、ユーラシアン・オデッセイ最終巻の裏面に「For the Americans」と記し、最も誇りに思う最後の本を、この人々に捧げたのだ。

10年ほど前、Donald Trump は演壇から「Make America Great Again」と叫び、初めて権力を握った。しかし、その呼びかけは、彼のような老人たちに向けられたものではなかった。もしそうだったのなら、それは方向を間違えた呼びかけだった。

「Make America Great Again」とは、我々の一部にとっては、あの「偉大なるオレンジの男」からの呼びかけだった。

ここへ来い。と。

そして、自分たちの手で実現しろ、と。

***

2026年5月24日 ― アトランタへの帰還

2026年5月24日。地球を丸一周して、東京からテキサス州のヒューストン経由でアタランタに飛行機で戻った。飛行機は遅れ、到着したのは真夜中だった。その夜必ず行けるはずだったクレアモント・ラウンジの閉店時間に間に合いそうになかった。着陸したらクレオにメッセージで伝えた。すぐに自転車を組み立てて彼女が務めるストリップ・クラブへ向かうと。「私は3時までいるから心配しないで。気をつけて。」と返事が来た。世界で最も忙しいとされるアタランタ空港のゲートから到着エリアまで30分もかけて歩き、朝の1時45分にようやく自転車を組み立てた。猛スピードでストリップ・クラブへ向かって、25kmの距離をなんとか1時間ちょっとで走れた。「あら、今夜は暇だったから早目に閉まっちゃったよ!でも大丈夫、貴方のことをクラブの外の道で待っているから、急がないで。」とメッセージが来た。

オロオロと真夜中の道を荷物ぎっしり積んだ自転車で坂道を登ってくるチャリンコオヤジをクレオは見て車のライト一瞬だけ点けて、位置を示してくれた。

仕事終わりのクレオは運転席で大麻を吸っていた。車から降りると、満面の笑みで僕を迎えてくれた。道端の木の影で二人は2ヶ月ぶりに互いを抱きしめた。たくさん話したいことはあったが、まず、キスをしていいか聞いてみた。照れた彼女は「いいよ」と。その場で僕たちは初めてのキスをした。彼女の口付けがかなり強引だったのに驚いた。「おいおい。ちょっとゆっくり。 笑」と彼女を止めた。

その夜、僕たちは日の出までクラブ周辺を散歩し、ハグしたり、キスしたり、まるで高校生のように青春の愛情を互いに表現した。僕の人生で遠距離の恋愛は何度かしてきたが、クレオのように毎日メッセージを打って、返事を待つような遠距離恋愛は2度目だ。「A」以来。距離を置いた愛情とは昔からあるものの(実にオデッセイの主人公と妻ペネロペも時間と空間を超えて愛情の絆を維持した)、僕たちの時代ではSNSで時と距離に橋をかけることに成功した。それは恋を薄める効果があるという者もいるが、少なくとも僕たちの間ではそのようなことはなかった。

クレオ:「あっ、そう!怒らないで欲しいんだけど、貴方の名前を犯罪経歴証明書の検索をかけてみたのよ!」

J:「え“!?なんで?」

クレオ:「私は用心深いの。そうしなきゃいけない。もし関係を持つかもしれない人が、例えば強姦犯みたいな犯罪者だったら、それは危険信号でしょう。」

J:笑「んで?検索結果では何か当たったの?」

クレオ:「うん。それについて直接聞きたかったわ。」

J:「大したことではないよ。子供の頃にちょっとトラブルにあっただけだよ。」

クレオ:「それならいいわ。今までの交際相手はしょっちゅう警察沙汰になった男達で、もう同じ間違いはしたくないの。」

彼女のライフストーリーを僕に解明してくれた。

30歳になったクレオには3人の子供が居て、それぞれ異なる父親がいる。長男は彼女が17歳の時に生まれた。次男は21歳の時。二人とも婚外子で、長男の父親は、クレオを妊娠させた直後、空き家に侵入して窃盗を働き、刑務所へ送られた。次男の父親は、ヘロイン中毒だった、あるいは今もそうなのだろう。彼はクレオとの連絡をすべて断ち、別の場所で新しい家庭を築いた。三男の父親とは結婚していたものの、酷いアル中とDVで、さらにはクレオの兄を包丁で刺したと言う、訳の分からないストーリー。言うまでもなかろうが、誰一人、養育費を払っておらず、全ての子供の世話はクレオと彼女の周りの家族がしているという。従来の尺度で見れば、とんでもない、ボロボロな家族構成だ。彼女のその小さくも力強い肩にのしかかっている責任の重さは、驚くべきものだった。

それでもクレオの母性本能は働き続けた。息子達の父親達に無理な荷重をかけず、子供のためにと思い、養育費の法的請求は控え、それぞれ子供との面会の機会を柔軟に与えようとしているらしい。

しかし、父親達はそれぞれの人生へと進んでいった。新しい交際相手。新しい子供。彼らはクレオの息子達にはほとんど関心を示さなかった。それが彼女には、とてもつらかった。それでも母親として、彼女は子供たちの人生に父親たちが存在し続けることを優先した。

僕には理解できない。一体どうして許せるのか、そんな役立たずな男達を。しかし、もしかすると、それが母親の愛なのかもしれない。

無条件で、感情的で、単純で自己中心的な男の頭では理解も説明もできないようなもの。

クレオ:「いずれ貴方に私の息子達を紹介しようと思っているけど、その前にまず彼らの父親達に会うことを条件にするわ。」

J:「ん?なんで?」

クレオ:「それが礼儀だから。私が新しい彼氏を作ったのに、子供たちの父親が事前にその人が誰なのか知らなかったら、あとで問題になるでしょう。」

J:「ク…クレオ…」

これを聞いた僕は彼女の洞察に圧倒された。一見、外から見る限り、彼女の家庭構造はまるで列車事故のようだった。しかし、彼女が僕に突きつけた条件には、完全に筋が通っていた。一瞬にして鮮明に全てを支えている柱が見えた。それは、彼女自身だった。

自分の家族の中心に立ち、何よりも子供たちを優先しながら、その周囲で絶えず動き続ける無数の要素を、静かに管理している女性。まるで女王蜂のように。彼女が現代のアメリカン・ファミリーそのものを体現していた。

日本やその他の先進国では少子化問題が顕著だ。僕は前からこの問題の源は個人主義と選択肢の豊富さだと考えていた。実に、金銭的に考えると子供とは資産よりも負債で、子供を産む合理性は経済的に存在しないため、自己利益を促進する資本主義社会では人口減少は問題ではなく一つの特徴だとも言える。しかしこの点、アメリカとクレオから学ぶべきことがある。それは、金が全てではないこと。何があろうと、何とかしていく。因習に従わないし、確かにメチャクチャな家族だが、それでも何とか成り立たせている。彼女の人生は型破りで、混沌としていた。

それでも彼女はそれを維持し続けた。

そのこと自体が、厳しい経済現実と、日本やイタリアのような国々で見られる終末的な人口崩壊に対する、一種の抵抗になっていた。

クレオのか弱い身体には、とてつもない荷物が載っていた。

彼女はクレアモント・ラウンジで見知らぬ男たちの前に裸で立ち、踊った。そして、堂々と立っていた。彼女は母親だった。

そして、さらに言えば、彼女は、自分の家族の中に僕のための場所を作ろうとしていた。

そのことに僕は深く心を動かされ、そして感謝した。

***

2026年5月26日 ― 二人で過ごした一日

5月26日。クレオは仕事を休み、僕と一日を一緒に過ごしてくれた。以前と同じカフェで合流した。天候は最悪で、アメリカならでは猛烈な豪雨が降り出した。僕はアタランタの東側から10キロ土砂降りの中を走って行った。彼女は街の西から、車で会いに来てくれた。彼女にある土産をプレゼントしたかった。アフガニスタンへ調査を実施しに行った時にジュエリー店で買って改造してもらったネックレス。とはいえ、西洋風のジュエリー店で売られているような綺麗物ではなく、複雑で、身につける人の身体に合わせて作り直したものだった。アフガンの宝石店では頼めば色々柔軟に対応してくれるので、好きなようにデザインをその場で改造してくれる。ちょっとエロチックな、心がこもった土産物。世界に一つしかない、彼女の裸姿を既に見た男による、身体に合わせた首飾り。ストリップ・クラブでも着られるように、アフガン原産の宝石「ラピス・ラズリ」を三角形に切り出された5つの石をチェーンから吊るし、胸の間に低く垂れるようにした。

合流したカフェにはちょっとした博物館が併設されていて、大雨のおかげでスタッフすらいなかった。彼女の手を取って誰もいない博物館の中に連れて行き、二人で静かに座った。そして鞄からネックレスを取り出して、彼女に献上した。

クレオ:「あらまぁ、いいの?こんなに美しい物をいただいても?」

J:「もちろん。君のために作ってもらったんだ。ただし、俺に翳させてくれ。」

目の前に立つアメリカン・ストリッパーは頬を赤らめた。彼女のスラリとした首の裏に両手を組んで、ネックレスの鎖を繋げた。一歩下がると同時に、クレオのブラウスの肩のストラップを優しく横に垂らして、乳を露出させた。彼女は抵抗しなかった。もちろん、服を脱いで仕事をする子なので、この場で乳を露出させても構わないだろうが、彼女の表情にはわずかな戸惑いが浮かんでいた。まるで、自分に問いかけているかのようだった。

この男は、一体何者なのだろう、と。この旅人。この外国人。

突然ストリップ・クラブに現れ、何度も何度も姿を現し、滝のように彼女へ愛情を注ぐ男。

ストリッパーという職業はその性質上、多くの男性との接触がある。クラブ内でのプライベート・ダンスはもちろん、会話する機会もたくさんあるし、クラブによってはVIP個室へ同伴される機会もある。その個室の中で何が起こるかは、ストリッパー(達)と客(達)との間の秘密。ストリッパーの世界では、男女の関係は速く、取引的で、そして性的だ。これを持って、僕自身、前に立つ女性に対して一体どんな魅力を感じているのかも考えさせられる。

嫉妬に脆弱な男ならば、こういう職業の女は向いていない。嫉妬に弱ければ、罪を知らない、何も分からない純粋な田舎の女を探せば良い。僕自身はとうの昔に嫉妬を後に残したつもりで、「普通」の女には飽き果ててしまっていた。彼女たちの「無垢」とされる部分には、もはや興味を持てなかった。実に、ユーラシアン・オデッセイ第3巻では性商売の世界の暗部に深く潜み込み、自分で苦労して見つけた真実を手に握っていた。禁断の真実。誰も尋ねるべきではない問いを、自分自身に投げかけたのだ。

それは僕が出会ったセックスワーカーたちは、僕の人生で出会ってきた「普通」な女性たちに比べて果たして劣るのだろうか?

そのタブー質問への答えは、美しく、貴重な真実を明らかにした。

いや、違う。

僕が見つけた真実とは、決して、働く女性は「普通」の女性に劣らないという、世界観を覆した真実。彼女たちは悪くなかった。劣ってもいなかった。低くもなかった。そう言わなければ、僕は嘘をつくことになる。

彼女らはただ……女性だった。

僕はクレオの職業を知った上、彼女を選んだ。それでも、彼女を追いかけることを選んだ。何かが、これはうまくいくと僕に告げていた。僕たちはただ、この世界の暗闇の中から互いを見つけ、そして互いを選んだ二人の人間だった。

コーヒーを飲み終えたら僕が泊まっているAirBnBへ戻って休憩することを提案したら、クレオは合意した。いよいよ時が来た。自転車を折りたたんで彼女の4輪駆動に積み、二人でアタランタの東の地区へ向かった。着いたら直ぐに2階へ、僕の部屋に連れ込んだ。いよいよ二人きりだ。彼女の下着を脱がして、見惚れてしまった香りをついに試させてもらった。その神聖な香りは期待を裏切らなかった。待ちに待った、惚れてしまった女の味。セイレーンの香り。

僕らは猛烈なセックスを開始した。彼女をベッドの周りを追い回すかのように、ヤってヤって、ヤリまくった。

***

古代のオデッセイでは、主人公オデセウスがセイレーンという、美しい妖精たちがいる海域を通過しなければならない場面に遭遇する。セイレーンの歌声を聴いてしまった船乗りは、目的も方向感覚もすべて失い、海峡の鋭い岩に叩きつけられ船が裂かれ沈没死が待ち受けている。この神話の密教的教訓とは、女性の魅力は危険であり、それを尊重しなければならないということだ。しかし、狡猾さで知られるオデセウスは、セイレーンの歌を聞きながら、無事に海峡を通過する方法を考え出した。彼は自分自身を船のマストに縛りつけ、船員たちには耳を蜜蝋で塞ぐよう命じた。そして、何があっても自分を縄から解いてはならないと命令した。そうやってオデセウスはセイレーンの曲を聴きながら安全に海峡を通過した、巧妙な冒険家だった。

それが古代ギリシャ神話だ。

しかし僕の現実では、クレオという女性が、まさにセイレーンそのもののように、歌よりも強力な香りによって、僕を何度もアタランタへ引き戻した。僕の物語は神話ではない。現実だ。僕の現実とは、アメリカでユーラシアン・オデッセイの三部作を広めなければならない、何としてでも著者として成功を収めなければならない宿命がある。その宿命の一部にクレオはなるのだろうか。それとも、その旅を終わらせる存在になるのだろうか。あるいは、これは単純に、美しいストリッパーをクラブから連れ出し、彼女と寝ることに成功したというだけの話なのだろうか。

クレオとのセックスで彼女のことをどう思うのか改めて考えさせる。男は最初だけ努力すると言われている。では、これは本当の愛なのか。

それとも、単なる欲望なのか。

同じ問いは、彼女の側にも浮かんでいたに違いない。

この旅人の愛は本物なのか。

それとも彼女もまた、無数にある「冒険」の一つに過ぎないのか。

***

僕は普段はコンドームを使わない。ユーラシアン・オデッセイ第三巻にも書いたが、性病とは弱いものしかかからないと僕は信じている。それと、性病は過剰評価されていると。また、帰結のないセックスは実質的には無意味なものだとも思う。そんな偏った考えを持つ僕だが、それに比べクレオは相当慎重で、僕にコンドームの使用を条件として突きつけて、僕は彼女の要請に屈してしまった!!

しかし、2度目からは彼女の条件を否定し、「男と最後まで行く覚悟を持たないならば、一緒に寝ない方がいい」という、卑怯な論理の罠に彼女をかけて、僕たちは避妊具なしのセックスを始めた。さらに、彼女は倫理上の主義と女性ホルモンへの悪影響のため、避妊剤を一切使わないことを僕に公開した。つまり、クレオは僕の分際と生のセックスをし始めた。それは大変嬉しいことだ。別に彼女が妊娠してもそれは悪いことだとは思わない。妊娠すればめでたしめでたし。僕たちの間で新たな生命が生まれたら、まだ子供のいない僕にとっては大きな出来事で、人生を大きく変えるチャンスが訪れる。

セックスの後、AirBnBのキッチンで料理をした。メニューはポルチーニのパスタ。去年の秋にサルデニア島でオリーブを収穫していた間、ポルチーニのキノコも集めて、刻んで、地中海の日光で乾燥させて保存しておいた。それを水で戻して、キノコの出汁でパスタ麺を茹で上げて、チーズと合わせて食べた。セックス後のクレオはどうやら頭が遠くなった様子で、深く考え込んでいたが、パスタを食べたら元気を取り戻した様子だった。「美味しいかい?このポルチーニは俺が収穫したんだ」と言ったら、彼女は「うん、とても美味しいわ」と。

食べ終えたらクレオは一服しに家の扉を出て行った。しばらく経っても戻ってこないから、どうしたのか見に行った。クレオは夜空を見上げていた。そーっと後ろから彼女を抱くと、「ほら、見て。コウモリが飛んでるわ。私はコウモリを捕まえることができるのよ。小さな光を靴下やタイツの中に詰めて空に向けて投げるとコウモリは寄ってくるの。近くまで来たら手で捕まえられるのよ」。

そんな技は見たことも聞いたことも無いが、是非、いつの日か見せてくれるようお願いして、僕たちは抱き合った。

クレオが車に乗って帰ったら、二階の僕の部屋に戻った。部屋の中は彼女の汗と愛液の神秘的な香りで満たされていた。その瞬間、僕は深い後悔感に殺到され、床に膝をついた。アフガニスタンを訪問した時から続けている、日5回の祈祷(ナマズ)を、彼女といる間は完全にすっぽかしていたことに気付いた。セイレーンの香りに魅了されて、毎日続けていた儀式をも忘れてしまっていた。その瞬間、床に倒れ込み神にお許しを求めて祈った。ナマズとは、不定期な僕の毎日にある「構造」を与える効果があり、それにより僕は数多くの恩恵を受けていたことは確かだった。

その時にひらめきがあった:彼女の誘惑的な香りから自分を守る方法が一つあると。それは、ベトナムで土産としてもらったシナモンオイルだ。これは非常に強力で、鼻穴の下に塗ればどんな女性の香りさえも圧倒してしまう。古代オデッセイの神話では船員たちは耳を蜜蝋で塞いだ。僕の現実における対応策は、鼻を抗いがたいシナモンオイルの匂いで満たすことだった。そうすればクレオの前でも冷静さを保ち、オデッセイ号が彼女への原始的で世俗的な欲望によって破壊されることを防げる。

そう考えた。
しかし、うまくいかなかった。

僕達は毎日合った。昼間は部屋でスピーチを書くなり、ユーラシアン・オデッセイの本を売るための戦略を色々考えた。夜になったら、クレオに会いにクレアモント・ラウンジへ自転車で向かって、彼女のストリップ勤務が終えるのを待ち、二人で夜遅くまで話してから一緒に帰って、愛し合い、早朝になると彼女は家へ車で戻るパターンの日が続いた。それが何日も続く、僕たちの小さな日課になった。

ある木曜の夜、クレオは仕事へ行く前に僕のAirBnBを訪れた。いつものようにセックスを開始するところで、ベッドの上で二人きりになっていた。彼女の服を脱がせたら、彼女は僕を止めた。

クレオ:「コンドームは使わないの?」

J:「いいや、使わないよ。」

クレオ:「じゃあ、絶対に嫌だわ。」

J:「ん?いつもと何か違うの?」

クレオ:「私のことを一体、なんだと思ってるの?貴方。」

彼女の態度は、普段の陽気なクレオとはまるで違っていた。まるで、悪魔に取り憑かれたかのように口調が冷笑的になり、皮肉ばっかりを言った。僕は戸惑ったまま、言葉を挟むこともできず、彼女は、長年にわたって蓄積された苦痛と疲労――絶え間なく浴びせられてきた、男性からの欲望に満ちた視線を、一気に吐き出し始めた。

クレオ:「貴方は私のことを上手に口説いたわ。よくやったわ、本当に。私の子供たちの父親以外で、避妊なしで私の中に入ることを許した男は、貴方が初めてだった。貴方は私の弱点を掴んで、思い通りに私を利用して、精神的に操って、セックスを武器にした。そうやって私を追い詰めて、私が覚悟していなかった大きなリスクを取らせた。私が大切に守ってきた神聖な原則をすべて壊し、踏みにじった。おめでとう。私は貴方のことが本当に好きだったわ。でも、貴方は私の信頼を繰り返し破った。貴方は特別だと思っていた。違う人だと思っていた。でも貴方も弱い。他の男と同じ。典型的ね。本当に典型的。貴方は私の時間に相応しくない。」

J:汗々「…あのぅ、何て言っていいか分からないです。」

クレオ:「そもそも貴方と話すためにしかインスタグラムを入れていたのも、そろそろアプリを削除していいかも。それと、もう私を観にストリップ・クラブへ来ない方がいいわ。」

僕は彼女の手を掴もうとしたが、彼女は手を引いてベッドから起き上がって、服を着始めた。そしてそのまま僕のAirBnBから出て、車に乗り込み、振り返ることなく走り去った。

信じられなかった。

またしても僕は素晴らしい女性を自分の指の間から失ってしまった。人生を通して今まで何人、神より送られた素晴らしい女性を失ってしまったか。ゾッとする。「A」、ナスタシャ・フィリポヴナ、フーリエ、そして今度はクレオ。僕は世界中の美しく素晴らしい女性たちと出会い、関係を持つという、どんな男も羨むような祝福を与えられてきた。

それなのに、毎回、僕は彼女たちを失った。

まるで祝福そのものが呪いだったかのようだった。

まるで僕の運命は、愛に飽きて諦めるように残酷に設計されているようだった。

しかし、諦めることは選択肢ではなかった。

それもまた、僕たち共通の運命なのだから。

男と女。

2日後、僕はミシシッピ州へ行ってユーラシアン・オデッセイの本について講演をする予定で、アタランタを離れなければならなかった。金曜の夜だ。クレオは働いている。ミシシッピへ行く前に、もう一度会って、なんとか彼女を取り戻さなければならない。そのチャンスがある。歯を喰いしまって、プライドを捨てて、自転車でクレアモント・ラウンジへ向かった。

金曜日の夜のクレアモント・ラウンジは相当混んでいた。扉を開けると爆音のラップ曲が流れていた。酔っぱらった匿名の人間たちの群れの向こうに、見覚えのあるシルエットが見えた。クレオだ。彼女はクラブの奥の方に居て、長い髪を束に巻き、3人の男が座る真ん中で厚底のヒールブーツを履き、裸に脱衣して、腰を旋回させながら踊っていた。

僕は柱にもたれ、手を置いて身体を支えながら、影の中から遠くで見ていた。

彼女の客は、3人の騒がしい若いエリート風の男たちだった。一人はクレオの尻を乱暴につかんだ。一人はいやらしい目つきで彼女を眺めていた。もう一人は片手に1ドル札の束を握り、もう片方の手で、彼女の太ももに巻かれたガーターベルトへ無理やり何枚かを押し込んでいた。

男たちは酔っぱらったまま騒ぎ続けた。まるで彼女を……自分たちの娯楽のためにレンタルしたかのように扱っていた。

一方、クレオは全力で踊っていた。遠くからでも、額に汗が浮かんでいるのが見えた。

その光景は、僕の心に永久に刻み込まれた。

僕はただ、柱に寄りかかりながらこの光景を観察した。

そして観察し続けた。

ただ見ていた。

どう考えて良いのか分からず、ただ、じっと観ていた。

この美しいセイレーンを僕は知ることができた。

この…母親を。

3人の可愛い男の子たちを養うためにこの母親は3人の男のために体を丸出しにして、彼女の人生の音楽に合わせながら、旋回している。

僕はただただ観察した。

目の前で起きていることを、僕は裁くことができなかった。

これまで僕は、どう判断すればいいのか分からないものに直面したことがなかった。

僕はこの女性を妊娠させようとした。そして彼女を失った。

そして僕の前に、他の男達が同じように彼女を妊娠させて、今に至っている。全裸になり、金のために見知らぬ男のために踊る、彼女の切ない現実。

そして、その結果がこれだった。

彼女の存在の現実。

裸になり、すべてをさらけ出し、見知らぬ男たちのために踊り、その男たちが笑いながら彼女の身体に手をつける。

数ドルのために。

……

なんて女なのだ。

なんて母親なのだ。

……

僕はようやく理解した。

僕はこの循環に加担しようとしていたのだ。

クレオが自分の世界で踊る姿を見ながら、僕は一つの核心的な真実にたどり着いた。

これを見て僕はたった一つだけ、確かな教訓を得た。

それは、互いをもっと大切にしなければいけないということ。

***

クレオがメインステージに登って踊る出番が来た。彼女は百人以上もの客の前にある高いステージへ立ち、ローブ、ブラジャー、Tバックを脱ぎ捨てた。ステージ付近に居た僕のことに彼女は気付き、一瞬、睨んできたが、何も口にしなかった。おそらく彼女は私と話すつもりがない。そう思ったので、僕は事前に書いておいた手書きのメモを、ステージへ投げ込まれる1ドル札の中へ放り込んだ。

踊りを終えたクレオはステージ上に溜まったドル札をかき集めたら、僕が投げ込んだメモを最後に拾って自分のバケツの中に入れた。そしてしばらく待った。メモにはこう書いておいた:「話す?嫌な終わり方にはしたくない」。しかしクレオは僕に話に来なかった。さらに、プライベート・ダンスを申し出ることすらなかった。そこで僕は答えを得た。

彼女はハスラーじゃなかったのだ。目的はやはり金ではなかった。

うまくいかなかった。

僕は夜のアタランタを、自転車でAirBnBへ戻った。酔ったように、ただ漂うように。

確かに涙はあった。

それは喜びの涙だった。

知ることができたことへの喜び。

抱きしめることができたことへの喜び。

そして、持つことができたことへの喜び。

愛することができたことへの喜び。

投入金額:$0
累計:$340

***

追記 ― クレオによるエッセイ

彼女の愛車であるアメリカ製ビュイックの運転席に座り、ひと息ついたときのことだ。僕は、自分の人生や自宅に僕を招き入れてくれた助手性に座る女性の方向に首を向けて、何気なくこう尋ねてみた:「もし娘が生まれたら、その子にもストリッパーになってほしいと思う?」

アメリカ南部特有のうだるような暑さの中、長い一日を僕たちは過ごした。何時間もの間、僕たちはクレオの古いアパートから新しいアパートへと、あらゆるものが詰まった段ボール箱やマットレス、ゴミ袋を運び出していた。疲れはあったが、やる気は十分だった。人の本質とは本棚を見ればわかるとよく言われるが、引っ越しを手伝えば、それ以上に多くのことが見えてくるものだ。彼女のキッチンには、優雅でありながら温かみのある食器が揃っていた。装飾的でありながら実用的でもあるそれらの品々。ストリッパーとして彼女と出会ったが、関係が深まるにつれて見えてきたのは、彼女がストリッパーである以上に、家庭を大切にする女性と母親だという一面だった。実際、彼女が自身の内面を僕にさらけ出していくその過程は、単に女性が裸の体をさらけ出すことよりも、はるかに深く、そして心をかき立てられる体験だった。

2026年の夏を通じて、僕はクレオを全く新しい視点で見つめるようになっていた。セックスをし、喧嘩をし、そして何度も恋に落ちるたびに、彼女は僕を自分の人生のより深い領域へと招き入れてくれた。

特定の何かや誰かを探し求めることなく、ただ純粋な好奇心を持って世界と向き合うとき、思いがけない発見があるものだ。 僕はアタランタで、本物のアメリカ南部女性を見つけた。趣味がよく、感受性の豊かな女性。僕はただ、彼女と一緒にいられることが嬉しかった。ただ一緒にいるだけでも幸せだったが、彼女の力に、それも意味のある形でなれること。その苦労さえも、実はかけがえの無いデライトだったのだ。

僕がそんな質問をしたことに驚いたような顔をして、彼女は答え始めた。

僕は彼女を止めて、エッセイとして書いてほしいと丁寧に頼んだ。

以下がその文章だ。

***

J: 「〜〜もし娘ができたら、ストリッパーになってほしいと思うか?〜〜

以上