レポート: 鍼術とベトナムの生物多様性について

当レポートでは東南アジアのサイアム半島北部ベトナムの山中を訪問し、現地の生物多様性と鍼灸に関して発見した新たなデライトについて報告したいと思います。
ベトナムの首都ハノイに一軒の漢方医クリニックがあります。その名は「エーデンクリニック」。聖書を引用する、癒しの場所。オーナーのハナ先生はユーラシアン・オデッセイ第3巻の終末に登場した漢方医の実務者で、2024年の夏に4年間にも渡る、人生を大きく変えた長い自転車旅の最後の最後で知り合った先生です。旅を終えた僕に「完全に新しい背中を得られたかのような」鍼灸を打ってもらいました。それ以来、ちょうど3ヶ月前にもう一度ハナ先生に会いに行って、針を打ってもらいました。
毎回ハナ先生の鍼灸は僕の体の疲れを深く解消させ、予想外の治療結果が得られます。例えば、3ヶ月前の鍼灸では腰あたりに集中してもらって、その結果、10年以上問題になっていた、くるぶしがポキポキと一日に何百回も鳴るのが、針術が終わってから直ぐに無くなりました。僕の身体は西洋医師による膝の手術の2回の失敗のせいで片足が脆くなってしまっていて、全体の生体力学的バランスが崩れていたのですが、ハナ先生の針は不思議なことに今まで眠っていた腰の筋肉を目覚めさせる効果があったのだと考えます。
いずれにせよ、ハナ先生とは仲良くなり、今回はベトナムに6日間滞在するチャンスができたので、ベトナム北部の山の中に入って幻の「お香茶」を探すのを手伝ってくれないかと提案しました。ハナ先生は漢方の知識も豊富で、何よりベトナム語と英語が両方話せるので、面白い企画になると想定しました。ついでに鍼灸も連日やってもらい、さらには針の打ち方も教えてもらえるよう、交渉しました。
以下が交渉条件でした:
報酬は1日100米ドル(合計400米ドル)。
ハナ先生には以下のことが求められます。
・ベトナム語から英語への通訳業務。
・お香茶探しに協力し、伝統医学の知識を共有。
・ジュリアンの如何なるアイデアに協力。
・ジュリアンに鍼治療のミニ講座を行い、世界中の友人への施術ができるように教える。
・毎日の出来事を英語で簡潔に日記に書き、情報共有や意見交換に役立てる。
・ジュリアンがインターネットに接続し、仕事で電話をかけられるように、Wi-Fiを共有。
・ジュリアンにフル鍼治療を1回行う。
まず、お香茶とは別のレポートで紹介した枝から淹れた神秘的なお茶のことです。ラオスの山奥に伝統医を探しに行ったら、村の仙人のような実務者と出会いました。彼は僕に奇妙な枝を数本プレゼントしてくれました。言葉が全然通じなかったものの、その枝をお湯で沸かしたら見事な赤色の出汁が取れました。味はお香の様な神秘さを持ち、さらにお香とは異なり燃やすものではない、ただの茶なので、お香よりも遥かに優しい香りを持つ「お香茶」でした。調査からわかったのは、その枝の正体は「Gnetum」という、東南アジア出生の植物だと識別されました。

よって、Gnetum を探し求めて2026年5月12日にハナ先生とベトナムの首都ハノイをバスで出発し、「Nghia Lo」という山奥の街へ向かいました。Nghia Loを選んだ理由は、ハノイから約200kmと近いのと、街を拠点にオートバイをレンタルして、周りの山を探索しながら現地の人にGnetumを知らないか尋ねることができそうだったためです。概して言うならば、この地域はとても生物多様性に恵まれた地域なのです。山地であり、熱帯地であり、国境と言語文化圏の交差点に隣接しています。
中国、タイ、ラオス、ミャンマーにも近いし、有名なゴールデン・トライアングルも西へ山を超えればぶつかります。まさにこの地域こそ、漢方医と兄妹関係のベトナム伝統医とラオ伝統医の薬局と呼ばれるほど、生物多様性に豊かなのです。

一方、ハナ先生として本企画に参加する動機はもっと複雑で個人的なものでした。
彼女は32歳と若く、自身の漢方医のクリニックをハノイのおしゃれな地区に構えているものの、プライベートではかなり追い込まれてしまっている現実から少しの間でも逃れたかった模様です。個人事業はただでさえ難しい上、ハナ先生のご主人様は3年間もベッドで寝倒れたイタリア人で、ハナ先生に完全に支えられている様子です。3年前、同い年の彼に心臓麻痺が訪れてから、一日中家のベッドに寝たきりで、一歩も外に出しないし、自分の爪を切ることさえできないという、失望的な状況が続いています。病院へ連れて行っても、医師達は「異常なし」と彼を送り返すし、本人も西洋医学の医師を信用しない陰謀論者のようです(僕自身も含み、こういう思考を持つ人はコロナ禍から激増しています)。よって彼はクリニックの一つの部屋にずーっと寝たままで、普通では考えられない家庭・職場環境にハナ先生は置かれて困ってしまっていました。僕が初めてエーデンクリニックを訪れた2年前、鍼灸を受けている最中に隣の部屋に寝たきりの男がずっと居るとは、思いにもよらなかったです。
しかし、2度目にハナ先生を訪問した3ヶ月前には異変に気付きました。如何にクリニックが廃れてしまっていたか、如何に職場の活気が失せてしまっていたか。初めて診てもらった時、クリニックのオフィスは清潔でちゃんとしていて、壁にはズラーっと漢方医の材料が棚に綺麗に並べられていました。しかし2度目の訪問ではクリニック中にカビが生えていて(旦那さんは一日中エアコンをガンガン効かせて部屋から一歩も出ません)、漢方医の材料も棚から無くなっていて(湿気のため、材料をエアコンが効いた、冷蔵庫のような旦那さんの部屋に移動していた)、経営が困窮していることは明らかでした。ハナ先生は優れた技術の持ち主なのに、こんな状態ではまともに仕事に集中できないでしょう。彼女もその事実を認めていたようで、僕の探検の提案を聞いたら張り切ってチャンスを掴みました。休暇と気分転換を想像していた様ですが、僕はちゃんと仕事をしてもらうつもりでした。
人が必要としている仕事ができるのに、ハナ先生の足は引っ張られ、限界に近づいてしまっていた。もしかしたら、この旅が限界点となるのかも知れない。
そんな背景で僕たちはNghia Lo へ行きました。
Day 1:
ハノイの空気汚染と蒸し暑さから離れ、山に完全に囲まれたNghia Loに到着するのに6時間もかかりました。この地域では Táyという少数民族が住んでおり、僕らがNghia Loに着いたら主に米の栽培で忙しそうでした。山のふもとはブロシュア写真で見るような美しい千枚田が無数に広がり、想像を絶するくらい美味しいご飯が食べられます。日本米が世界一と語る、偏った日本人は何人も会いましたが、彼らは果たしてNghia Loの米を口にしたことはあるのだろうか。まるで米が生きているかのように噛んだら弾む歯応えに、生き生きした新鮮な味。周りの山には滝があっちこっちにあり、水田が必要とする豊富で綺麗な水を米に蓄えている。

僕たちはオートバイを借りて早速近くの市場へ向かった。Gnetumの枝の独特な断面写真を市場の人に見せたら、すぐに分かって、一袋買いました。ホテルに戻ってお湯で沸かしてみたが、全然美味しくなかった。お香の香りは確かに微かにしたが、渋みが酷く、苦くて全くもって美味しくない。でも確かにGnetumが見つかったので、この地域にもっと新鮮な枝があるはずだと考えて、翌日探しに行くことを決めた。
その夜、ホテルでハナ先生は急にマッサージをしてほしいと僕に依頼した。勘違いしているのだろうか。仕事で来ているのに何故僕が彼女にマッサージをしなきゃならないんだ?ハナ先生はベッドにうつ伏せに寝込んで、上着を外した。まぁ、プロに僕の指圧マッサージを評価してもらう機会ではあるので、25分間、マッサージをやってみた。中々上等だと。100点中80点と。この旅で僕もスキルアップしたいので、嫌々に褒め言葉を受け入れた。
次にハナ先生は「自動鍼灸」のやり方を教えてくれた。これは自分の秘孔に針を独自で打つ方法。非常に興味深く、手の裏から脚下まで針を打てる秘孔をハナ先生は教えてくれた。秘孔に針が当たると、周りの筋肉が反射的に締まりついて、新たな体の操り方に目覚める感覚が得られた。鍼灸とは体内の12の経絡を流れる「気」の詰まりを取り除き、流動性を促すことが主な目的です。ただ、神経を刺激して操ることはかなり気持ち良く、単純な指圧マッサージよりも遥かに精密技術で、気をつけないと血管に針が当たって出血、アザなどと軽傷を起こしてしまいます。
そのために身体の「地図」のような図表が漢方では存在します。漢方にもあるし、ベトナム伝統医にもあり、これを参照しながら針を打っていくことが賢明です。

ハナ先生の日記:
The journey began almost quietly, with nothing more than a plan, a name, and a destination I could hardly picture in my mind. Julian was the one leading the way, speaking about medicinal herbs as if they were hidden treasures waiting for us somewhere deep in the mountains.
Nghĩa Lộ, a small region in northern Vietnam now connected with Lào Cai, was a place I had never seen before. Yet somehow, it already felt as if it were calling us.
The sleeper bus was surprisingly comfortable for me, rocking gently through the night. For Julian, however, with his 1.87 meter frame, it was another experience entirely. He kept shifting, stretching, trying to fit himself into the narrow space. Eventually, though, he surrendered to exhaustion, and before long the steady sound of his snoring filled the quiet bus around us. I smiled to myself. Some people do not need perfect conditions in order to rest.
We arrived around 3 PM. The air immediately felt different, fresher and calmer than the cities we had left behind. I was relieved that I had prepared some food in advance, so after eating quickly, we went to rent a motorbike. Julian naturally chose something sturdy and reliable, the kind of machine that looked ready for whatever roads might lie ahead.
We rode through unfamiliar streets before stopping to eat again. The food was simple, but incredibly fresh, the kind of flavor that speaks for itself without needing any description. Soon afterward, we found a quiet place to stay. Just the two of us in a small but comfortable traditional stilt house. There was something deeply peaceful about it.
That evening, something unexpected happened. I showed Julian a little about acupuncture. I thought it would only be a brief introduction, but the moment he saw it, his curiosity came alive. He immediately wanted to try it himself. Carefully, but without the slightest fear, he began placing needles on his own body. Hegu. Quchi. And especially Zusanli. At one point, he casually stood up and started walking around the room with a needle still in his leg.
I watched him, somewhere between amusement and admiration. Some people learn slowly. Some people prefer to observe first. And then there are people like Julian, the kind who learn by stepping directly into the experience without hesitation and without fear. At that moment, I realized that this journey might become something very different from what I had first imagined.
The first day came to an end quite late. I drifted into sleep with a deep sense of contentment after such a long and eventful day. As I lay there, I found myself quietly looking forward to what the next day might bring, hoping for new discoveries waiting somewhere ahead of us. There was something about this journey that was awakening something deep inside me. Perhaps because, deep down, I have always loved exploring the unknown. I have never truly believed in placing limits on myself, or on what life might reveal beyond the familiar.
Day 2
新鮮なGnetumを探し求めて山道をオートバイで走った。近くの村を訪れたら、市場で同じGnetumは見つかったものの、残念ながらこれも2年前にラオスの仙人に頂いた神秘的なお香の味と香りを持つGnetumに劣る。まだ諦めるには早いので、翌日はより深い山奥に入ることにして、当日の探求は中止した。
Nghia Loの少し北に温泉があるとGoogle Mapsに記されていたので、ハナ先生と夕方に行ってみた。どうやら僕には珍しい、素晴らしいものを見つける異常な才能があるようで、この温泉はまさに幸福を及ぼすようなスポットだった。一枚岩のコンクリートの井戸が作られていて、中央に温泉水が溜まり、その円周にコンクリートから作られた湯船に鉄湯の源泉水が流れ込む構造。このスポットは少し街外れにあり、観光客にはあまり知られてなく、僕たちが着いた午後4時頃にはベトナム人の労働者たちが大勢で水浴びしていた。一枚岩の裏側は女湯として使われていたが、少し離れたら簡単に覗き見できる。水温はパーフェクトに適切で、日射がなければ快く長時間入浴できる。日射さえなければ。つまり夜に来れば他の入浴者もいないだろうし、水も綺麗になっているだろう。
この日からハナ先生にイライラし始めました。独り旅に慣れている僕は、他の人と旅をすると結構その人の存在が鬱陶しくなる。オートバイに二人乗り中、余計なボディタッチをしてくるし、ハナ先生は仕事なのがホリデーだと勘違いしているようだ。ハナ先生は夜に一緒に温泉へ行きたがっていたが、僕はそのつもりはなかった。
ハナ先生の日記:
I woke up early in the morning, feeling excited and full of energy. The city I live in, along with the responsibilities on my shoulders, has never really allowed me to feel truly free.
I waited for Julian to wake up so we could continue our journey. He seemed exhausted after days without proper sleep, and I figured he finally had a good rest. I let him sleep a little longer, knowing his body needed it.
We had a few clues about the herb he was looking for from a local. I told him we should head straight there. After eating, we went to the market. A traditional herbal medicine seller had a wide variety of remedies. I showed her a picture of the herb Julian was searching for. She immediately recognized it. “Gắm,” she told us. Its scientific name is Gnetum montanum or Gnetum. Probably we’re talking about Gnetum montanum because it’s more famous and common in the North mountains. I became curious almost instantly. Surprisingly, this herb was not even on my personal list of medicinal plants, and I realized I knew almost nothing about it. That only made me more interested.
On the afternoon of the second day, Julian took me to a hot spring. I had never been to one before and could only imagine how hot the water would be. In winter, people come to soak and relax, but in summer, I thought it might be unbearable. When we arrived, everyone was already in the water. I hesitated for a moment, then decided to step in. The heat surprised me. It was much hotter than I expected. After the bath, my whole body felt flushed, like a freshly boiled shrimp. At that moment, I realized I should have brought more water with me.
Later, we asked the locals for advice and were guided to a traditional herbal healer. She told us that the Gắm plant is very hard to find, as it only grows deep in the forest. Even when people manage to find it, it is often sold immediately. She introduced me to many other herbs, which was still an interesting experience.
Even though we felt a bit disappointed about not finding Gắm, I learned something valuable. The type Julian has been searching for is extremely rare. It is called Red Gắm. That night, I performed acupuncture on Julian. His back looked like a dragon, covered with needles. He even stood up and stretched while the needles were still on his back.

Day 3
三日目もGnetumを探しに行ったが、良い物は見つからなかった。オートバイでクルージングしていたが蒸し暑くなったのでNghia Loの北に流れている川で水浴びをした。僕の後にハナ先生も水浴びできるように彼女をそこに残してもっと高い山の方へ独りで向かってみた。すると、山を回った角に妙に覚えのある香りが空気に漂った。
シナモンの香りだ!山の角に一つの家が建っていて、オーナーは剥いたシナモンの木の枝を地面に並べて強力な日射で乾かしていた。彼をアプローチし、3本の大きなシナモンの剥を取って、30円ほど分の現地通貨を手渡してからその場を離れた。もうちょっと道を先に行ったら、同じようにシナモンを日光で乾かしている家庭がいくつもあった。そこでブルーゾーンのイカリア島で観察した現象を思い出した。イカリア島では、ある谷で一種のハーブが育ち(例えばセージ)、その隣の谷では全く別のハーブ(例えばラベンダー)しか育っていなかったことを思い出した。生物多様性にはこの様に規則があるようで、一つの山を回ったり越えたりすると、全く違う環境があり、全く別の植物が生えている。この地域では、シナモンの森が繁殖しているようだ。
この夜、僕の機嫌が悪くなった。ハナ先生とずっと一緒にいるのはかなりきつい。夜の10時に先生に部屋に来てもらって針を背中に打ってもらった。これは何の勉強でも訓練でもない、冷酷なサービス残業の強制。彼女も僕の機嫌の八つ当たりを喰らっていることを察したようで、怠けてスイカを片手で食いながら僕の背中に針を打って行った。
鍼灸が終わり、ハナ先生が自分の部屋に戻ったら、昨日の温泉へ自分で真夜中に行ってみた。予想通り、誰一人いなかった。鮮やかに夜空の星が見えるところで鉄湯が井戸から優しく流れる。水の音しか聞こえない。虫達も眠りについたようだ。街灯も無いから何も見えない。独りでこの場へこの時間に来るのは大正解だった。スマホのライトで水を拝見させてもらった。綺麗に透き通って、湯船の周りの緑色の藻類が暖かく僕を迎えてくれた。服を脱いで水槽の中に入って、淵に置かれた小石で肌の垢を擦り始めた。見事に垢は薄黒い両円錐の形に擦られ、ピカピカ光る肌に密着して、そのまま水に潜ったら垢は落ちた。別に水が汚れても大丈夫だ、こんな時間には誰も来ないだろうし、流れる水は朝になれば綺麗になっている。
続けてゆっくり、時間に気にせずお湯を浴びたり、石鹸で体を洗ったり、そのまま立って夜の寒さを肌に染みさせた。すると夜空を眩しい光が横切った。溶接光の様に真っ白に燃える流れ星が数秒間夜空を横切って、赤いカケラに分離してから消えた。
流れ星は僕にある女のことを思い出させた。その女はアメリカのアタランタのストリッパー:「クレオ」。10日後に彼女の街で合流する予定だ。毎日インスタでメッセージを交換していて、互いに再会するのを楽しみにしていた。彼女は流れ星とは良い前兆で、その兆候とは限界の無さを示していると僕に以前言った。何でも良いが、僕が経験したこの安静な瞬間は、確かに人間の限界とはそもそも存在しないことを実証しているのかも知れない。
人間に限界があるならば、僕の脚の怪我は6年にも渡る自転車の旅を許さない。
人間に限界があるならば、東京の鎖から解放されこの世を飛び回り冒険家ごっこなんて6年間も続けていられない。
限界とは本当は存在しない、ただの脳内の空想。何でもやれば可能なんだ。人間にはできないこと、神に伴うなら全ては可能になると、イエス・キリストは語った。その事実を思い出させる、流れ星だった。
しばらく裸のまま夜空を眺めていたら何かの気配がした。暗闇の中で動く謎の輪郭。胸がゾッとして、思わず「おぉぉぉ!!」と叫んで焦ってしまった。裸の人物が僕の背後を通った。ベトナム人の老人だ。老人は一切音を立てず、丸坊主の、裸足で丸裸のままオロオロと湯船に向かって足を引きずった。ガニ股のゆっくりした歩きだったので、危険人物では無いことを確認した。挨拶をしたが、彼は僕を無視して地面に仰向けになり、湯船からコンクリートの地面に流れ落ちる排水のスポットを選んで、水浴びを始めた。
言葉は通じないが、センスの似た発想の持ち主。次の人がいつ入浴するか分からないから、次回からもうちょっと綺麗にお風呂を浴びよう。

ハナ先生の日記:
Thanks to the herbal healer’s guidance, I learned about the 5k market. It is called the “5k market” because, in the past, everything there was sold for only 5,000 VND. It was very cheap and mainly served as a place for locals to exchange food and daily necessities. The market was more than 30 kilometers away from where we were staying, so we woke up very early to go there.
On the way, I noticed a small herbal shop. We stopped by and tried a few kinds of herbal remedies. However, most of them tasted quite unpleasant, so we decided to continue our journey to the 5k market.
The market was simple and not very crowded, as it was harvest season. In the end, we bought a Gắm plant to experience it ourselves.
Day 4
最終日だ。この日こそ新鮮なGnetumを見つけないとこの旅の目的を果たすことができない。ハナ先生をオートバイの後に乗せて、早速山の奥の奥へ向かった。この地域の生物多様性を鑑みて、山を越えないと新たな植物が生える「ゾーン」を見つけることができない。早速シナモンを栽培している一軒家を訪ねて、ハナ先生に通訳をしてもらってシナモンの使い方や有効性について聞いてみた。ペルシアではシナモンはお茶にして飲むが、ベトナムではそのまま木の剥を齧って食べるようだ。漢方でシナモンは生姜の様に「熱」の性質を持つ材料らしい。それは、ハナ先生曰く身体を温める効果を持ち、物質交代と循環を促し、「冷えた」箇所やエネルギーが不足している状態に熱を加える効果を持つと言う。
僕らは庭一面に敷かれたシナモンの剥を見て、オーナーの目利きに頼って最も良い枝を一つ一つ選びながらビニール袋を詰めて行った。袋が満タンになるまでシナモンを集めたら、オーナーは僕の積極性に惹かれ、家の中から自慢の「シナモンオイル」を持ち出してきた。このオイルは何十キロものシナモンを圧搾して得られた、貴重な油。この地域のシナモン栽培者は金にならない為、シナモンオイルはもう作られない、とてもレアな品だと言う。売ってくれないかと聞いてみたら、オーナーは笑いながら断ると同時に、少しだけプレゼントとして分けてくれた。辱い、貴重な宝物だ。

幻想的な香りがする、新鮮なシナモン剥を袋に詰めて、頂いた貴重な贈り物を笑顔で見ていたら、この旅で良いGnetumが例え見つからなくとも焦る必要がないことに目覚めた。もしもこの地域にGnetumが生えているならば、既に良い物が見つかっていたはず。だが新鮮なGnetumが見つからないということは、単純にこの辺りの山では生えていないということだ。数百キロ離れたラオスの山奥へ行けば、仙人から頂いた新鮮なGnetumがあることは間違いない。一方、サイアム半島のこの地域はシナモンが最高だということを学んだ。この生物多様性の有り様を尊重する他ない。ここに来たおかげで新しい、素晴らしいものを発見できた。それで良いのだ。
もっと山奥に入ると大きな滝があった。休憩のためにオートバイを止めて、滝が流れる岩の上に座りピクニックをした。Nghia Loの最高の米から作られたおかゆにドリアンとマンゴスチンのフルーツ。ドリアンはまさに今が旬だ。毎朝、ハナ先生とNghia Lo の市場へ行って、その日のドリアンとマンゴスチン2kgとお粥を買っていた。ピクニックを終えたら、ハナ先生に滝が流れる平らな岩の上で針を打ってくれと言った。後から来た現地の子供達は不思議そうにこの光景を観ていた。

80km走って峠に到着した。峠を越えればまた新たな植物が生える「ゾーン」に辿り着く可能性があったが、これ以上進んだら帰り道が暗くなってしまう。ちょうど峠の天辺にあった店でGnetumの葉から作られた、缶詰ペーストが売られていたので買ってみた。値段が高かったがどうでもいいような、つまらない商品だった。味もイマイチ。でもしょうがない。これが自然を尊重するという意味だ。無理にその地域で生えない物を求めて質の良いものを期待する方に間違いがある。この法則はベトナムの山奥でも該当するし、世界のあらゆる都会でも応用される。大地とその産物は切り離せない。この極めて単純な事実を確認した上、この地域の大地が産む最高のシナモンを持ち帰って、旅を終えることになった。
***
最後の夕食でハナ先生と旅の感想を語った。Nghia Loの最高のご飯に、青野菜の炒め物。味の素を使わないよう、シェフに指示させた。オクラのようにネバネバする新鮮な野菜炒めとご飯を食べていたら、突然、知らない番号から僕のスマホにWhatsAppのメッセージが届いた:
「こんにちは、ジュリアンさん!ハナの旦那です。よかったら僕が書いた記事を読んでみてください。誰もがこの記事を読み、内容を把握するべきです!」
と、怪しい記事へのリンクが送られてきた。早速右手に箸を持ったままスマホでページを開くと、マニアックなウイルス関連の記事だった。次のパンデミックを阻止する方法と、理解不可能な専門用語がズラーーーっと並べられた、よほど暇な人間以外読む(ましては書く)のに時間を無駄にしない、ゴミだった。これをハナ先生に打ち明けた:
J:「ねぇ。今さぁ、君の旦那さんから変な記事が送られてきたんだけどー!彼に連絡先教えていないんだけど。」
ハナ:「あらまぁ、ごめんなさい!!恥ずかしいわ。彼はいつもベッドの上からそんな記事ばかり書いて人に送るの。」
J:「やばいね。終わってるね。」
ハナ:「えぇ、もう散々です。常に旦那と揉めているわ。彼は漢方についてすごい知識を持っているけど、お客さんと対面で仕事ができないの。エアコンが効いた部屋から、外へ一歩も出ないくせに色んな医学的な論文みたいなのを書いて…そんなんじゃ生計を立てられないわ。ここ数年間、私だけで家族を支えているの。私のスキルで彼を治癒してあげたいのだけど、彼は私のことを信用していないから、私の治療方法を受け入れてくれないの。」
J:「君が抱えている問題をなんとかしないと、まずいよ。何かを変えるなら今しかないと思うよ。だって、もう32歳でしょ?この状況が5年間続くとしたら、先が見えるよ。あるいは、思い切って人生を変えて、君のずば抜けた鍼灸の才能や、お客さんを安心させる感性と漢方医の知識・技術を活かして、事業を促進させて開拓できるのは今の内だと思うよ。あまり他人の家族に関して指摘するのは良ろしくないのは分かってるけど、3年間もベッドに寝たきりはあり得ないよ。そして彼がこの意味不明な記事を送ってきただけでなく、正にその記事を書いたと言うのは、希望を持てないよ。俺だったら既に彼を道端へ蹴飛ばしているよ、正直。」
ハナ先生は箸を置いてうずくまった。僕が言っていることは正しいと理解したものの、どうしようもない状況に直面しているのは第三者の僕ではなく、彼女自身だ。彼女自身の家族。その愛の絆の強さは如何なるものなのか、僕には理解できない。僕には自分の家族はいないから平気に指図したり、判断を下すことはできるが、僕には理解できないんだ。それをハナ先生は考えていたのかも知れないが、決して口にはしなかった。足手纏いの夫なんて切り捨てればいいと言っているのだから、僕は。
もしかしたら僕は結婚に向いていないのかも知れない。愛の絆の強さを認めていない。でもどうだろう。そんなに強いものなのだろうか。澱み込んでしまったエーデンの庭園の扉を僕のようなよそ者に開いたら、その神聖な場所とそれを保つ絆を破壊しようとするに違いないだろう。
***
Nghia Loを夜間バスで離れて、ハノイへ二人で戻った。なんだかんだ言って、この4日間の遠足は互いにとって貴重な時間だった。プロ中のプロの鍼術を毎日受け、果物から米まで旬の食材を味わい、温泉なりシナモンなり様々なデライトに巡り合い体験した。鍼灸は僕の体を奥の底から和らげてくれた。ハナ先生も僕の身体に2年間も針を打っているので、その変化を観察していた。「前回と比べて、筋肉がついたわね」と。3ヶ月前は確かに結構たるんでいた時期だった。実は僕は新たな筋トレのメソッドを2ヶ月前から始めていたのだ。それはまた別の調査文で紹介します。
その夜、僕はベトナムを離れて日本に戻った。空港へのタクシーの中は最高な香りがした。当初、カバンに入れたシナモンかと思ったが、よく包んであったのでそんな訳はない。するとダッシュボードを見るとそこに面白い物が積んで飾られていた。シナモンの剥だ!!運転手にNghia Loの話をしたら、彼は張り切って自分の故郷のViet Lamと言う町のシナモンだと、大きな笑顔で誇らしげに言った。中々ない話だが、チップは運転手から客へ、シナモンを数本プレゼントしてもらった。

帰り道に、ハナ先生から次のメッセージが送られてきた:
「私の状況が酷いのは分かっているわ。でも大丈夫。私は家族を愛しているの。なんとかするわ。旦那には諦めないわ。今の人生は本当にきついけど、それでいいの。時にはファイトが必要よ!」
ッフ… ならば夜の温泉は夫を直してから、彼と行ってみてみせてください。
ハナ先生の日記:
Today was the last day. Julian decided to climb the mountain to search for more clues about the precious medicinal plant. The road was long and exhausting, leading up to the summit of a steep mountain called Mù Cang Chải. The mountain peak rose nearly 3,000 meters above sea level. I have to admit one thing: Julian has very solid driving skills.
We stopped by a waterfall. The water was crystal clear, shimmering with shades of blue and green. We rested there for a while before Julian came up with the idea of trying acupuncture right beside the waterfall. It was such a unique experience that I couldn’t resist giving it a try. As the sunlight warmed his skin and the cool stream flowed nearby, Julian lay there quietly, feeling the fine needles resting across his back. From time to time, I gently splashed a little waterfall water onto his back. Whenever his muscles moved, the needles shifted softly with them. After a while, Julian slowly rose to his feet.
Once the session ended, Julian and I continued on our journey. Before long, he noticed a house filled with piles of cinnamon, its rich fragrance drifting far into the air. We stopped by and discovered that the owner ran a vast cinnamon farm, covering nearly ten hectares of land. He welcomed us warmly and let us experience the sun-dried cinnamon branches spread across the courtyard, releasing a deep, sweet aroma under the mountain sunlight.
The owner of the cinnamon hills carried many dreams in his heart. He hoped to create a place where travelers could experience the authentic traditions and services of the local people, yet he had never found anyone able to truly help him bring that vision to life.
After our conversation with the owner of the cinnamon farm, we continued on a long journey before finally reaching a small camp near the mountaintop. There, we also spoke with several local villagers. However, they told us that the medicinal herb we were searching for could only be found deep within the forest — a place so remote that very few people were able to reach it.
Julian seemed a little disappointed, perhaps because the herb he had hoped to find remained hidden deep in the forest. Still, at least he had discovered another precious treasure of the mountains: cinnamon. The owner of the cinnamon farm generously gifted him some cinnamon essential oil along with a large amount of cinnamon bark to take home.
That day, the final stretch of our journey felt incredibly long. Late in the evening, before boarding the car back to Hanoi, I gave Julian one last acupuncture session. Perhaps that final acupuncture session helped Julian recover some of his strength after a long day of driving through the mountains of Mù Cang Chải. It gave him enough energy to board the car and make the journey back to Hanoi. And so, it was the final acupuncture session before Julian left Hanoi to fly to Japan. I hoped that this treatment would bring him comfort, relaxation, and renewed energy for the journey ahead.
以上。
